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2017年創業の冷凍パンベンチャーが、なぜネスレ日本と協業できたのか

2020年02月06日 公開

矢野健太(パンフォーユー代表取締役)

 

美味しいパンをローカルな市場から解放したい

 ――御社の最大の強みは冷凍方法にあると言えると思いますが、その技術の開発は難しかったのでしょうか?

矢野 いえ、そんなことはありません。目から鱗の発見でしたね。設備投資の必要もない方法ですから、パン店にも喜んでいただいています。

 ――どのようにして発見したのですか?

矢野 冷凍パンの販売会社として創業したあと、冷凍パンの中に美味しいものと美味しくないものがあることに気がつき、その違いを考えたんです。

 ――パンフォーユーを立ち上げる前は、パンに関わる仕事をしていたわけではないですよね。

矢野 当社を創業する前は、群馬県にある地域活性化などのプロジェクトを手がけるNPO法人で働いていて、そこに冷凍パンや寄付金をいただいていた冷凍パンメーカーと出合いました。

 私は寄付の窓口をしていたので、寄付のお礼をしにいったところ、「手伝ってもらえないか」という話をいただいたのが創業のきっかけです。業務用で業績を伸ばしていたメーカーだったので、そのメーカーと私とで半分ずつ出資し、個人向けの販売会社を立ち上げました。

 その後、先ほどお話ししたように事業の内容も変えましたし、その冷凍パンメーカーからも独立しました。

 ――その冷凍パンメーカーの冷凍方法は?

矢野 今も当社とは別の方法です。

 ――今は街のパン店からパンを仕入れていますが、仕入れ先は自社で開拓されたわけですね。

矢野 そうです。初めは、「うちのパンを冷凍して、しかも東京で売るの?」と懐疑的に見られました。実際に冷凍パンを食べていただいたお客様の反応がよかったので、「お客様がいるので買わせてください」というところから取引きを始めたのですが、お客様の声をフィードバックすると、パン職人の方々に喜んでいただけました。意外と、普段はお客様の声を聞く機会がないんです。

 また、お客様が飽きないように、毎月、メニューを変えていて、店頭販売用には作れないパンに挑戦できるのが楽しいとも言っていただいています。店頭では、売れ残らないように、売れ筋の商品だけを作ることになりますが、当社は作っていただいたパンを買い取る契約を、中長期的に結ばせていただいています。

 ――メニューはどのように決めているのですか?

矢野 そこはおまかせでセレクトしています。

 ――パン店の開拓は、1軒ずつ訪問して?

矢野 最初はそうしていました。けれども、いきなり訪問しても注文を受けていただける余裕があるかどうかわからないので、材料をパン店に販売している卸業者を通じて情報を集めました。今では、パン店からお問い合わせをいただくことも多くなっています。

 ――パン職人の腕も確かめている?

矢野 オフィス向けに関しては、群馬県の本社の者が食べて判断しています。けれども、私たちが食べてみて基準をやや下回るかなと思ったものでも、オフィスで食べたお客様には好評なことがあるんです。実は、都心で暮らしている方には、美味しいパンを食べたことがない方が多いからです。特に男性に多いですね。

 雑誌のパン店特集でも、取り上げられるのは郊外や地方の店が多いですよね。都心だと、パンの原価に占める家賃や労務費の割合が高くなってしまうので、美味しいパン店が少ないんです。

 ――ネスレ日本以外の他社との協業についても教えていただけますか。

矢野 自社オリジナルのパンのブランドを持ちたいという企業に、OEM先として、当社では取り扱わないコンセプトのパン店を紹介したり、百貨店のパン事業の立ち上げを一緒にしたりしています。

 ――多岐にわたる活動ですね。

矢野 パン店のパンはローカルな消費しかなかったので、その流通を変えて、市場を解放したいと思っているんです。今はオフィス向けを手がけていますが、2020年2月には個人向けも正式リリースしますし、業務用など、他にもチャネルを広げていきたいと考えています。

 個人向けについては、地方の50代以上の方がヘビーユーザーになると思います。地方だとパン店が遠いので、40代までならクルマに乗って買いに行くのですが、50代以上になると面倒になるからです。また、子供が自立して、自分のためにパンを買う人も多くなります。

 また、オフィスから持ち帰った冷凍パンを食べた家族に「また食べたい」と言っていただくことも多くあるので、そういう方にもお届けしたいと思います。

 パン店に対する福利厚生サービスも、〔株〕ベネフィット・ワンのサービスを当社の負担で提供するという形で、2019年12月に始めました。私の実家は自営業だったので、新卒で大手企業に入社すると、あらゆるサービスが割引で利用できる社会保険などがとても充実していることに驚いたんです。パン職人にも個人事業主が多いので、福利厚生サービスを利用していただき、良い仕事をすることに集中していただきたいと思っています。地方でもきちんと収入を得て、満足な働き方ができるようにすることが、当社の創業の目的でもあります。

 ――最後に、長期的に御社が目指す姿をお教えください。

矢野 パンは家賃や労務費が安い地方のほうが美味しいものが作れるのですが、これまではローカルでしか消費できませんでした。その市場を、冷凍技術によって解放したいと思っています。

 地方の商店街には、学校に商品を卸しているので成り立っている文具店があります。同様に、当社に商品を卸すことによって経営が成り立つようになれば、地方にパン店が立ち並ぶようになるかもしれません。パン店とお客様だけでなく、街づくりにも貢献できると思います。

著者紹介

矢野健太(やの・けんた)

〔株〕パンフォーユー代表取締役

1989年生まれ。群馬県出身。新卒で〔株〕電通に入社し、中部支社にて交通広告を担当。その後、教育系ベンチャー、地域系NPO事務局長を経て、2017年に〔株〕パンフォーユーを設立。

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