2019年01月21日 公開
2023年07月03日 更新
その上で、ステップボーンカットの技法を体系的に学べるスクールを開いた。現役の美容師でも学べるよう短期集中で受講でき、コースによっては講師の資格も取れる仕組みだ。
その結果、日本だけでなく、インドネシアやシンガポール、台湾など、アジア各地のサロンから、「東洋人に合ったステップボーンカットを学びたい」という美容師が日本のスクールへ通うようになった。
ここで学んだ美容師たちは本国で技術を披露し、講師資格を取った美容師が本国で他の美容師を育てていくことで、ステップボーンカットの評判が広がっていった。
2016年には、世界最大規模の美容ショー「インターナショナル・ビューティー・ショー・ニューヨーク」からのオファーで、カットのデモンストレーションを実施。ニューヨーク・ブルックリンに構えたスタジオで技術を教えるスクールを開くと、ますますその名が広まっていった。
「TICK─TOCK」は、美容技術のプラットフォームを作り上げたわけだが、優れているのは、スクール事業の収入だけではなく、物販によって継続的に収入が得られる仕組みを作り出していることだ。実は、ステップボーンカットをするには、専用のはさみやローションを必要とする。だから、カット技術を学んだ美容師たちは、継続的に商品を購入するのである。
またセレクトショップの「バーニーズ ニューヨーク」でも、ここの化粧品を扱うなど、世界を視野に入れたブランディングを展開しているため、プレミアム価格を維持しやすい環境も整えている。
このようにTICK─TOCKのビジネスモデルは、キャッシュポイントを複数構築しているので、事業同士の相乗効果も得られ始めている。
一人の美容師が、今なお髪を切る現場に立ちながら、グローバル市場へ大きく拡張できる可能性を持ったビジネスに挑戦する姿勢は、誰にとっても見本となろう。
この「TICK─TOCK」を始め、インパクトカンパニーへと進化し始めた会社には、いくつかの共通点がある。
一つには、どんなに規模が小さくても、地球的視点を持ってビジネスを展開していることだ。TICK─TOCKの例で言えば、日本の優れた美容技術を世界に広げること。こうした壮大なビジョンを臆せず掲げ、事業に取り組むからこそ、応援してくれる人々が世界から集まってくる。
そして、もう一つの共通点。それは、人々の生活に密着するローカル企業だからこそ培われた現場の知恵を、誰でも活用できる技術へと昇華したこと。その結果、プラットフォーム型ビジネスモデルへと進化し、地域商圏内のみでしか成長できないという「地域の分断」を飛び越えた。
こうして、業界他社が人口減社会の日本で成長を続けられるか不安を感じる中、世界へ事業を拡張する突破口を開いたのである。
(神田昌典著『インパクトカンパニー』(PHP研究所)より)
更新:11月22日 00:05