
仕事・ビジネスでも、キャリア・人生でも、何か意思決定をする際に自分なりの軸を持っている人は、周りに流されずに適切な判断をできることが多い。では、そうした「自分の判断軸」を持つためには、いったいどのようなことを学び、考え、体験したらいいのだろうか。
本連載では、ボストンコンサルティング グループの日本代表を長年務め、現在はリーダー教育にも携わっている御立尚資氏の考えをうかがっていく。
連載第5回の前編にあたる本稿では、「併存の時代」のリーダーに求められる6つの要素について解説する。(取材・構成:杉山直隆)
※本稿は、『THE21』2024年5月号の掲載記事より、内容を抜粋・編集したものです。
これまで4回の連載では、これからのリーダーに必要なことについて語ってきました。それは次の2つです。
・自分なりの判断軸を持って、時代を認識すること
・自分の時代認識モデルを使って、「今後、この世界でどんなことが起こる可能性があるか」という近未来のシナリオを描くこと
ところで「これからのリーダー」とは一体どのような人物なのでしょうか。残り2回の連載で改めて整理してお伝えしていきたいと思います。
連載第1回でも述べましたが、マネジャーとリーダーの仕事はまったく違います。
マネジャーの仕事は、過去の踏襲とその延長線上で計画的に決められることをきっちり実行することです。
それに対し、リーダーの仕事とは、計画的に決めることができない未知の領域に、部下と共に挑戦することです。目標や戦略を決めて実行するわけですが、変化の激しい時代なので、想定していた状況は目まぐるしく変化します。そうした変化に臨機応変に対応し、目標や戦略を調整していくことも必要です。
企業経営にはリーダーとマネジャーの両方が必要ですが、世の中の先行きが読めないいまは、リーダーとしての仕事ができる人の重要性が高まっていると言えるでしょう。
学問的なリーダー論をひもとくと、かつて、リーダーとしての能力は「生まれつき持った天賦の才能で決まる」という説が主流でした。しかし近年の研究でそれが覆され、「後天的に身につけられる」という説が主流になっています。
では、リーダーとしての能力はどうすれば身につけられるのでしょうか。私はリーダーを形作る要素は6つあり、それらを身につけていくことで、真のリーダーへと近づいていくと考えています。

ほとんどの方が、先にマネジャーとしての基本、すなわち「特定分野の業務知識」を身につけます。
日々仕事をしていると、経理なら経理、営業なら営業、と配属された業務の知識に詳しくなっていきます。周囲の人からも一目置かれるぐらいの業務知識が身につくと、エキスパートとしてマネジャーの第一歩を踏み出すことになります。
次に身につける必要があるのは「社内・業界知識」と「ネットワーク」です。
エキスパート的なマネジャーの仕事も、次第に自分の周辺だけで完結することができなくなります。何か難しいことが起こると、社内のほかの部門や社外の人を動かせる人が、仕事ができる人、と呼ばれるようになります。
他部門の業務の知識があり、要所の人とネットワークがある。場合によっては、業界他社とも繋がり、共同で規制当局と折衝したり、川上・川下の企業の人たちともやりとりができる。これが重要です。
例えば営業の仕事は、商品開発や生産側とつながることで成り立っています。相手方に少し無理な頼みごとをして、引き受けてもらうときに大事なのは、相手側の視点です。営業だけでなく、商品開発や生産の仕事を深く理解し、何はできて何はできないかを想像できる。これなしには、物事は進みません。
さらに、お互いの貸し借りの積み重ねの中で、他部門の要所にいる人と「もう、この人に頼まれたら仕方ないな」という関係性が築ければ、仕事がスムーズに進むようになります。
このネットワークが、社内だけでなく他社の人にまで広がってくると、大きな仕事も動かせるようになるということです。このあたりで、少しずつリーダーへの旅が始まります。
第3の要素は「統合的な経営知識」です。
営業や商品開発、マーケティング、生産など、自分の専門分野とは別の分野の視点が増えていくと、多面的な角度から物事が見られるようになります。すると視野が広がり、セクショナリズムから脱却した経営者的な観点で仕事ができるようになるのです。
例えば、ビジネススクールで勉強する意味の大部分は、人事や経理・財務、生産など、自分の分野とは別の分野の視点を持ち、統合的な経営判断の練習ができることと言っても良いように思います。

以上のような「特定分野の業務知識」「社内・業界の知識」「ネットワーク」「統合的な経営知識」を持つと、リーダーとしての仕事ができるようになる。従来はそう考えられてきました。
ところが近年は、それだけではリーダーとして活躍するのが難しくなってきました。
連載の第1回でも述べたように、いまは、工業化社会の最終盤とデジタル化時代のとば口が同時に走っている「並存の時代」です。
このような並存の時代には、従来の仕事のやり方の延長線上にある常識的な視点と視野だけでは課題を解決できません。そこで、リーダーも新たな要素を身につけることが求められるようになりました。
その4つ目の要素が「時代認識と世界観」です。つまり、これまでの連載でお話ししてきた「これからの時代を読む力」「近未来のシナリオを描く力」です。
いま、世の中はどのような状態にあるのか。今後はどのような未来が待っているのか。未来を完璧に読むことはできないまでも、「○○の力が働いているので、××の方向に動くのではないか」と近未来の大きな流れを見通し、それに沿った打ち手を考えること。
現代や未来を、上空1万メートルから見てみたり、足元を見つめてミクロの視点に入り込んでみる。あるいは200年単位で見てみたり、10年単位で見てみたりする。これは複数の「視点」の組み合わせで「視野」を広げることを超え、「視座」を変えるということです。
自分なりの時代認識や世界観を持つというのは、言い方を変えれば、独自の視座を持つといってもいいでしょう。その視座に立脚してシナリオを描くことで、どんな手を打てば良いかが見えてくるのです。例えば前回の連載で取り上げたように、気候変動の影響を見て、バリューチェーンを組み替えたり、新たなビジネスに取り組んだりするわけですね。
もちろん、先行きが100%読めない中で未知の領域に進んでいくのは容易ではありません。先が見えなくても、リーダーはどちらの方向へ進むかを決断せねばならないからです。このときに役立つのが、ブレない判断軸です。そして、その判断軸のベースとなるのが、5つ目の要素である「哲学・価値観」となるわけです。
さらに、その判断をもとに「先はまだ見えていないけど、この山を越えたら違う景色が見える」とフォロワーに信じてもらえる説得力も求められます。
こう考えるとリーダーというのはなかなか骨の折れる「しんどい」仕事ですよね。これをやり続け、結果を出していくには、自分自身を動かす内的なドライブが不可欠ですし、見えない中で判断を下す勇気も必要です。こうした「人を説得し動かす力」「勇気とドライブ」が、リーダーに必要な6つ目の要素となります。
これらの6つの要素が揃って初めて、これからの時代に活躍できるリーダーになれると言えるでしょう。
次回、後編で5つ目の要素「哲学・価値観」、6つ目の要素「人を説得し動かす力」「勇気とドライブ」についてお話しします。
【御立尚資(みたち・たかし)】
京都大学経営管理大学院特別教授。京都大学文学部米文学科卒。ハーバード大学で経営学修士(MBA with High Distinction, Baker Scholar)を取得。日本航空(株)を経て、ボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。日本代表(2005~15年)、BCGグローバル経営会議メンバー(06~13年)、経済同友会副代表幹事(13~16年)などを歴任。著書に『経営思考の「補助線」』(日本経済新聞出版)、『使う力』(PHPビジネス新書)、『「ミライの兆し」の見つけ方』(日経BP)などがある。
更新:05月10日 00:05