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bitFlyer「投資対象としてだけではない、仮想通貨の可能性を広げる」

2020年10月07日 公開
2020年10月26日 更新

【経営トップに聞く 第38回】三根公博(bitFlyer代表取締役)

ビットフライヤー

アプリを介してさらなる付加価値を

――三根代表ご自身は、bitFlyerに入社する前、マネックスグループ〔株〕からの出向という形でコインチェック〔株〕に在籍していました。

【三根】2018年4月にマネックスグループがコインチェックを買収したあと、4人の執行役員のうちの1人として出向しました。コインチェックは同年1月にNEMという仮想通貨の流出事件を起こして業務改善命令を受けていましたから、それに対応するとともに、当時は仮想通貨交換業者の登録が済んでおらず、「みなし業者」だったので、登録のための業務も行ないました。

 その後、2018年9月にマネックスグループに戻り、2019年3月にリスク・コンプライアンス副本部長として当社に入社しました。代表取締役に就任したのは2020年3月です。

――仮想通貨に携わるようになった経緯は?

【三根】2015年にマネックス証券〔株〕に入社してから、興味を持つようになりました。日銀が主催するフォーラムでも話題に上っていましたし、もともと新しいテクノロジーに関心があったので、FinTechに注目していたんです。FinTechの中でも仮想通貨は、テクノロジーだけでなく、法律や制度のインフラにも関わるので、とても興味深く感じました。

 当時は、送金や決済の手段として、仮想通貨が注目されていました。ですから、マネーロンダリングやテロ資金の送金などに使われることが危惧されて、2016年5月に開催された伊勢志摩サミットでも仮想通貨に関する規制が話し合われました。

――仮想通貨と言えば投資の対象だというイメージを持っている人も多いと思いますが、当初は違っていたのですね。

 【三根】仮想通貨は「お金のDX(デジタルトランスフォーメーション)」で、この流れは避けられないと思います。今のお金がすべて仮想通貨に置き換わるとは思いませんし、未来のことはわかりませんが、日銀が発行する「デジタル日銀券」と仮想通貨がハイブリッドで使われるようになるかもしれません。デジタル日銀券とは言っても、「券」ではなくなるわけですが。

――投資対象だというイメージのために、仮想通貨を手にしようと思わない人もいると思います。どうすれば仮想通貨をより広めることができると考えていますか?

【三根】投資以外の使い方の認知を広めることだと思います。例えば海外送金では、従来の方法だとかなり高い手数料を、仮想通貨だと大きく下げられます。また、IPO(株式上場)の仮想通貨版と言えるICOは、様々なプロジェクトの資金調達に活用できます。こうした仮想通貨の活用法を、もっと広報していく必要があると思います。

 また、仮想通貨には様々な仕組みのものがあります。例えば、ビットコインが代表例ですが、電気代を使ってコンピュータに計算をさせることで発行される「Proof of Work」と呼ばれるタイプもあれば、保有していることで特典を受けられる「Proof of Stake」と呼ばれるタイプもある。そして、それぞれの仮想通貨の仕組みには、その背景にある設計思想があります。その設計思想を知っていただくことも重要です。

 当社のアプリでは、各仮想通貨の取引価格だけでなく、各仮想通貨自体の解説も掲載しています。株の取引をするサービスなら、ある銘柄のページを開くと、その企業についての解説が掲載されていたり、関連する外部サイトへのリンクが貼ってあったりするのが普通です。それと同様のことを、当社のアプリでもしているのです。地道な活動ですが、仮想通貨について理解を深めていただくために重要なことだと考えています。

――その他に、御社がしている具体的な取り組みは?

【三根】今年7月には、米国のBrave Softwareとパートナーシップを結びました。現在は、同社が開発したBraveというブラウザを使うだけで、広告を閲覧した際に「BATポイント」というポイントが貯まるようにしているのですが、11月頃からはBATという仮想通貨が付与されるようにする予定です。ブラウジングという極めて日常的な行為によって仮想通貨を手にできるようにすることで、仮想通貨の新たな可能性を示せるのではないかと考えています。

 昨年8月には〔株〕Tポイント・ジャパンと提携して、Tポイントをビットコインに交換できるようにもしています。

 当社を経由してECサイトを利用するとビットコインが付与される「ビットコインをもらう」というサービスや、ビットコインで買い物ができる「ビットコインをつかう」というネットショップも運営しています。

 認知を高めるという点では、今年はテレビCMを2種類、放送しました。5月に放送したものはグラフィックを使ってテックカンパニーとしてのイメージを訴求するもので、6月に放送したものは乃木坂46の齋藤飛鳥さんに出演していただきました。その影響もあってか、従来から当社の顧客には比較的若い方が多かったのですが、20代など、さらに若い層の方々の口座開設が増えました。大学生などと話をする機会がたまにあるのですが、若い方ほど仮想通貨を自然に受け入れていて、興味を持っているように感じます。

――同業他社が増えたことで競争が激化すると思いますが、この点についての戦略は?

【三根】このままでは、手数料を安くするなどの価格競争に入っていくことが予想されます。そこに陥らないためには、アプリを介した付加価値の提供などに、さらに力を入れる必要があると考えています。また、「ビットコインをもらう」「ビットコインをつかう」のような、エコシステムの構築も重要です。

――海外事業については?

【三根】bitFlyer グループは米国のサンフランシスコと欧州のルクセンブルクにグループ会社を持っています。日米欧の3拠点で仮想通貨交換業を運営する認可を受けた取引所は当社が世界唯一で、とても誇りに思っています。取引量が多い日本での経験を、米国や欧州でのマーケティングやプロダクトにも活かしていきます。

 欧米では日本よりも仮想通貨に対する抵抗感が少なく、特に米国では、機関投資家も代替資産として仮想通貨を持つことを検討するようになっています。米国には強力な競合もいますが、さらに事業を拡大していきたいと思います。

――その他、さらなる成長に向けての施策は?

【三根】今年5月1日から施行されている改正金融商品取引法で、STOの規制が明確化され、法的な位置づけが正式になされました。STOは証券をデジタルのトークンにして発行することで資金調達をすることです。

 STOを行なうには第一種金融商品取引業者の登録が必要で、当社はまだ登録できていない「みなし業者」なのですが、将来的にはSTOにも取り組んでいきたいと考えています。どんなテクノロジーも、過渡期を経て、当初は思いも寄らなかった可能性を拓いていくものです。STOも同じように発展していくだろうと期待しています。

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