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カカオジャパン「『勤勉』『誠実』を貫いたことが、『ピッコマ』を成功へと導いた」

2020年09月25日 公開
2020年09月25日 更新

【経営トップに聞く 第37回】金在龍(カカオジャパン社長)

当たり前のことを真面目にやり続ける

――無料で読めるけれども、結果的には売上が上がるビジネスモデルだということですね。

【金】ゲームは、オンライン化されることで、無料でプレイできるものが数多く登場しました。そして、無料でプレイできても、月間数百億円というような大きな売上を上げられることを証明していました。マンガでも同じようなことができるはずだと考えたのです。

 私は大学で経済学と文学を学んだのですが、マンガやゲームなどのコンテンツは、経済学では「経験財」と呼ばれます。経験しないと価値がわからず、しかも、人によって感じる価値が違うからです。経験財を売るためには、まずは経験してもらうことが重要です。経済学の観点からも、「待てば¥0」は有効なビジネスモデルなのです。

――それでも、出版社の理解を得るのには時間がかかったわけですね。

【金】ハードルは2つあって、1つ目が「話売り」でした。それまでマンガの電子版は単行本を1冊単位で売るもので、1話ごとに分割して売ることはしていなかったのです。分割すると、売上の計上をどうするのか、作品の登録をどうするのかなど、色々な問題が出てくるのだと思います。ePubのデータを分割する作業も当社がやると交渉しても、最初はなかなか応じていただける出版社はありませんでした。

 スタートしたときの「ピッコマ」は、その時点で「話売り」をOKしていただけていた日本文芸社と〔株〕竹書房の2社の、合わせて約80作品だけが読める状態でした。

――しかも、それらは「待てば¥0」ではなかったわけですね。

【金】無料にすることに対する出版社の抵抗感は、もっと強かったですね。それが2つ目のハードルでした。「待てば¥0」は、“無料と言っても無料ではない”という確信があったのですが、なかなか受け入れていただけませんでした。

 先ほどもお話ししたように、最初に「待てば¥0」で作品を提供していただけたのはコルクでした。出版社ではなく、クリエイターのエージェントです。その後、中小の出版社にも提供していただけるようになりましたが、大手出版社は時間がかかりました。

――途中で諦めることは考えなかった?

【金】商談がダメでも、帰りに言う言葉は決まっているんです。「来月、また来ます」です。

 私は、「勤勉」「誠実」という言葉を父からもらって、今でも大切にしています。当たり前のことを真面目にやる、ということです。スポーツマンガの主人公が、才能はなくても、ズルをせず、努力を続けるのと同じです。

 クリエイターが心血を注いで作った作品の価値を消費者に伝えて認めてもらうことは、当たり前のことだと思います。「待てば¥0」はそのための仕組みなのですから、その実現のために努力するのも当たり前のことです。

 私がカカオジャパンの社長に就任したときに、社員に伝えた方針も「勤勉」「誠実」でした。小学校の教室に貼る標語みたいだからなのか、苦笑する社員もいましたが(笑)。社員がついてきてくれたのも、私が言うことが当たり前のことばかりなので、反対するところが少なかったからかもしれません。

 とにかくトラフィックを増やすことを目的にしたり、広告を入れたりして、すべての作品を無料で読めるようにしているマンガアプリもありますが、そうしたアプリの影響か、「ピッコマ」に対して「タダでは作品を全部読めない」というクレームが入ることがあります。これほど豊かなマンガ文化を育んできた日本にそういう人が出てきたのは悲しいことです。

――御社はカカオトークの日本での展開もしていますが、「ピッコマ」との関係は?

【金】カカオトークは管理をしているくらいで、事業の中心は「ピッコマ」です。カカオグループは、各社の独立性が強いため、それぞれの強みを活かして柔軟に活動ができるんです。グループ間のシナジーも出せていると思います。

――今後の展開として、特に注力することは何でしょうか?

【金】「ピッコマ」の今年8月のiOSとGoogle Playの販売金額の合計は、7月に続いて、日本の非ゲームアプリで1位だったのですが、世界全体でも10位に入りました。1位は米国のTinder、2位は中国のTikTokで、日本で生まれたアプリで10位に入ったのは「ピッコマ」だけです。

 私が日本でマンガのビジネスをしているのは、日本には豊かなマンガ文化があり、面白いマンガがたくさんあるからです。これからは、日本のマンガを世界にもっと出していく役割を担いたいと思っています。

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