2025年09月02日 公開
CO2排出量見える化サービスで、日本・アジアで導入実績No.1を誇る「ASUENE」。これを提供しているのが、2019年に創業したばかりのアスエネ〔株〕だ。大企業も含め、競合他社も多いなか、なぜ急成長を遂げることができたのか。創業者でCEOを務める西和田浩平氏に話を聞いた。(取材・構成:川端隆人)
※本稿は、『THE21』2025年10月号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
――もともと三井物産で環境関係の様々なビジネスを経験されています。「CO2排出量の見える化」という事業を選んで起業したのは、なぜですか?
【西和田】実は、それほどビジネスモデルにこだわっているわけではないんです。大きく「脱炭素の産業変革をやりたい」と思って起業しました。
最初に手掛けたのは再エネ特化の電力小売ビジネスでした。2つ目の事業として立ち上げたのが、CO2排出量を見える化するクラウドサービス。3つ目でESGの評価事業、4つ目にカーボンクレジットや排出権の取引所を立ち上げました。
――複数の事業を展開することを、最初から意図していた?
【西和田】そうですね。社会により大きなインパクトを与えるためには、1つの事業にこだわる理由はありません。
総合商社出身で、「カップラーメンからロケットまでなんでもやる」という発想になじんでいたせいもあるかもしれません。
――創業からの成長速度が目覚ましいですね。
【西和田】10年ほど三井物産に勤めている間に、大企業のいいところも、弱点も経験しました。その経験から、スタートアップだからこその強みがあると考えました。
1つはテクノロジーです。
大企業には、エンジニアと話したことがないとか、自分で手を動かしてコーディングをしたことがないといった人が多い。組織が小さいスタートアップでは、そうはいきませんから、大企業で働くよりもテクノロジーへの理解が深まります。
もう1つはスピードです。
大企業は、リソースは潤沢ですが、組織が大きいぶん、意思決定に時間がかかります。一方、スタートアップは速いスピードで進められます。
また大企業にとっては、CO2排出量の見える化という事業の現在の市場規模は小さくて、どうしても優先順位が低くなってしまいます。ですから、関わっている従業員数も少ない。
当社は、全体の従業員数では大企業に勝てませんが、200名以上がこの事業に取り組んでいて、大企業で同じ事業を担当している人数よりもはるかに多い。局地戦では大企業に勝つことができるのです。
――御社の事業はソフトウェア開発力が重要な役割を担っていると思います。技術を担う優秀な人材確保に成功した要因は?
【西和田】核となる人材を口説いたということに尽きます。優秀なエンジニアや優秀なプロジェクトマネジャーを採用できると、その人がチームを呼んできてくれますから。
もちろん、優秀な人材を口説くのは、最初は苦労しました。コツは......諦めない心でしょうか(笑)。
私自身も、ソフトウェア開発について、かなり勉強しました。
起業する前は、エンジニアと話したこともないし、「コーディングって何?」「要件定義?」「設計ってどうやるの?」という状態でした。そんな状態では、そもそもエンジニアの能力を判断できませんし、優秀な人材を口説くなんてできませんから。
まずは30冊ほど開発の本を読んで、ノートに要約して、基本的な知見を身につけたうえでエンジニアの採用に臨みました。
面接に来てくれた方に、自分がわからない知識について質問をすることで、自分の勉強にもなるし、相手の言語化能力や説明能力も見る、ということも続けました。
通常業務でも、起業から3年くらいは毎日、プロダクトマネジャーの業務もしていたので、実地でも開発を経験しつつ学び、今があるというかたちです。
技術もですが、営業も大事です。うまくいかないスタートアップのほとんどは、開発が弱いか、営業が弱いか、です。
営業についても、スキルの高い、核となる人材に入社してもらうことができ、当社の成長に貢献してくれました。
もちろん、創業当初は、私自身も営業電話をかけていました。自分で受注したら、プロダクトマネジャーとして要件定義するのも自分。経営者として、戦略を立てたり、資金調達をしたりもしながらです。
あらゆる業務を経験したおかげで、従業員が増えて仕事を任せられるようになっても、丸投げにせず、解像度の高い指示ができるようになったと思います。
――トランプ大統領が脱炭素に消極的であるなど、脱炭素に対する社会の関心が薄れているような印象もあります。事業として取り組んでいて、どのように感じますか?
【西和田】確かに短期的にはアメリカの脱炭素需要が落ち始めています。欧州でも、今まで脱炭素に向けて先鋭的なことをやりすぎていた反動で、調整局面が来ている状況です。
しかし、脱炭素や気候変動といった課題が重要度を増していくのは、長期的なトレンドとしては不可逆、変わらないと考えています。
実際、温室効果ガス排出量を実質的にゼロ化する「ネットゼロ」は、日本も含めて世界150カ国以上が掲げている目標で、法制化もされています。
最近ですと、SSBJ(サステナビリティ基準委員会)が温室効果ガス排出量の開示基準を公表しました。このうち、スコープ3と呼ばれる基準では、サプライチェーン取引先におけるCO2排出量の開示が、原則、義務化されることになっています。簡単に言えば、これまで排出量削減は「一部の大企業の問題」だったのが、大企業と取引のあるあらゆる会社に波及するということです。
現在、日本にはチャンスが訪れていると考えています。
日本人は謙虚なので、「脱炭素で海外に遅れを取っている」としばしば言います。ここで言う「海外」とは欧州とアメリカの一部のことでしょう。
その欧米が失速している今、脱炭素で世界のトップに追いつき、国際的な産業競争力を上げる、すごいチャンスが来ているわけです。
――逆風どころか、実は盛り上がりつつある分野なのですね。
【西和田】実際、当社は、今年3月に過去最高受注額を大幅に更新するなど、直近で業績が大きく伸びています。
――最後に、今後の展望を教えてください。
【西和田】現在の我々は、日本、そしてアジアでナンバーワンです。今後は、ESGのソフトウェア領域でグローバルナンバーワンになりたいですね。それが短期、中期での目標です。
その次は、最速で企業価値が1兆円規模の企業になること。創業時は700万円ほどだったところから、現在、数百億円にまでなっています。5年で4000~5000倍くらい成長しています。ここから30倍で1兆円です。
1兆円企業というのは、日本で言えば上位200社ほどです。そのくらいになると、「世の中になくてはならない存在」になれます。脱炭素やESGをリードする会社が大きくなることで、世の中に本当のインパクトを与えられるんじゃないかと思っています。
1兆円企業になるという目標から逆算すると、当然、M&Aも必要でしょう。また、現在、海外では5拠点で事業を展開していますが、海外売上比率も30%以上に上げる必要があります。
目標のグローバルナンバーワンに向けて、スピードと実行にこだわって前進していきます。
更新:09月03日 00:05